ユープケッチャは、安部公房の小説に出てくる虫。
この、ケチャップみたいな名前の響きが面白い。
エピチャム語で、虫や時計という意味があるそうだ。
肢は退化してしまって無い。
船底のような体と、触覚で、自分の排泄物を食べ続けるだけなので、ただただ回転し続けている。
頭を常に太陽の方に向けているから、その土地の人には時計の代わりとして重宝されている。
だけど、左回りに動く。眠っている間は止まる。糞にバクテリアが繁殖してからそれを食べるように動く。つまり、動くのはとてもゆっくり…。
雨期や乾期はバクテリアの再生能力が衰え、時も停止しがちになる。
(これは小説の中の生き物。以下、更につまらないのでお暇な方だけどうぞ。)
けれども。
ユープケッチャは、実用性以上に、人をひきつけるものがある。人の心をなごませる。
時計を持つより前に、この左回りの時計虫に慣れていたら、愛着も出るかもしれない。
例えば、透明のシャーレに、透明のマニキュアで色模様を描いたケースの中に、ピッタリ収まるサイズのユープケッチャがクルクル回っていたら可愛いのではないか。
直射日光の当たらないところに時計として飾るのはどうだろう。
でも生き物だから、蓋は開けたままだから、シャーレの模様は意味がないな。約1.5cmと、ペットボトルの蓋よりもずっとずっと小さいんだなぁ!
などと、色々妄想してみても、…主人公は、このせっかく買ったユープケッチャを、標本だったからか、デパートの包み紙にくるんだまま、しまい込んでいる。
肝心なのは、所有しているという事実であり、目で確かめることではないらしい。
自分の大事な物を思い出してみると、なるほど、そういうものかもしれない。
私も、一時は飾っていたモルフォの標本、今は大事にしまってある。
この短編集の入った本「カーブの向う/ユープケッチャ」は、私は、とっても面白かった!
余韻を感じる話が多くて、私はテキパキ読むことができず、とっても読むのに時間がかかった。(いつも基本、読むのは遅い。)
「ごろつき」は登場人物の話す速度や話し方の癖みたいなのも勝手に浮かんできて、すごく近くで見れた感じがして話に入り込めた。
「手段」はすごく読み進められなくて、仕方なく、1回、目で追うだけで流すように通り過ごしてから、最初に戻って読み始めるという読み方になってしまった。けれど、面白くなって、更にもう一度読んだりした。
「探偵と彼」「カーブの向う」良かった。読み終わって、ボーッとなり、もう一度物語の中に入る感覚になって楽しめた。
「子供部屋」は、私は怖かった。
でも女性が逃げた理由は、私とは全然違うようだ。
自分が見てしまった事実は、自分が言いさえしなければ、無かったことになるんだなと思ったけれど、それ以上のことが理解できなかった。
「トータルスコープ」はVRの先がけ?と思いましたが、「月に飛んだノミの話」と共に、正直あまり興味が沸かなくて、他の人よりサラッと読み流してしまった感です。
「チチンデラ ヤパナ」は後に「砂の女」となった作品。
タイトルの響きが、すごく謎めいて聞こえるけれど、ただ、ニワハンミョウの学名。ヤパナはjapanaです。
「ユープケッチャ」は、そこから発展していく小説があるのですが、それは残念ながらまだ読んでいない。
でも、この作品はこれで、謎めいた面白さがありました。
私には、殆どのシーンが、妄想なのではないかと思えてしまいました。
ユープケッチャの標本をデパートで買って所有している主人公は、まるでユープケッチャのように生きている。
茶色い固形であるチョコレートをたっぷり一皿、それに黄色い液体であるビールを一緒に飲んでいる。(摂取している)
そして限られた空間に…トイレだけがあるような空間に、いつも居る感じがする。
最後のシーンでは、そこにあった便器に足をはめてしまって肢が無いユープケッチャと同じ状態になり、その時に頭上から落ちた物は、細長く茶色い固形物のチョコレートでした。
私は、可笑しい ^_^ と思いました。
けれど、そんな茶色と黄色の摂取物より、眼鏡でのぞく立体航空地図が大好きだったみたい。(Google Earthを見たら喜んだろうな。)
そして、大好きと言うより、それが自分にとってのユープケッチャの糞であるとはっきり言っていた。
主人公は、体重の重さで出不精になったと書いてあるし、妄想の中でも妹にデブ呼ばわりされていた。
しかし、父の話をする時には、190cm近い身長は似ているが、父はデブで自分は60kg足らずと言っている。
だから、父のくだりは逆に全部妄想かと思ってしまった。他にも、これは妄想ではないかと思うシーンがたくさんあった。
結局、ユープケッチャ、、、ということだけが残りました。
面白い短編集でした。
ちょっとした興味のきっかけをくれた、尊敬する大好きな人に、ありがとう…。
それから、私が買った「砂の女」の装丁が、今のと違って、奥様の安部真知さんver.だったのも嬉しかった。
昨日の空
posted by nori at 21:13
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